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名古屋高等裁判所 昭和59年(ネ)164号 判決 1985年12月24日

控訴人(被告、反訴原告) ミツドランド・ロス・コーポレーシヨン 外一名

被控訴人(原告、反訴被告) 大同特殊鋼株式会社

原審 名古屋地方昭和五二・五六年(ワ)第一六一五・二七一一号(昭和五九年二月二七日判決、一六巻一号九一頁参照)

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴人ミツドランド・ロス・コーポレーシヨンの当審で拡張した請求を棄却する。

当審における訴訟費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  当事者の申立

(控訴人ら)

1  原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の原判決主文一項1、2掲記の本訴請求をいずれも棄却する。

3  被控訴人は原判決別紙第一目録記載の製品(イ号製品)を製造、販売してはならない。

4  被控訴人は前記製品を廃棄せよ。

5  被控訴人は控訴人ミツドランド・ロス・コーポレーシヨンに対し、金一億一四五一万五〇〇〇円及び内金八四〇五万円に対する昭和五五年五月三一日から、内金三〇四六万五〇〇〇円に対する昭和五九年八月一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え(内金三〇四六万五〇〇〇円に関する部分は当審での拡張請求)。

6  訴訟費用は第一、二審を通じすべて被控訴人の負担とする。

7  3ないし5について仮執行の宣言。

(被控訴人)

主文と同旨。

二  当事者の主張及び証拠関係は、次に補正、付加するほか、原判決事実摘示及び当審訴訟記録中証拠に関する目録記載のとおりであるから、これを引用する。

(原判決事実摘示の補正)

1  原判決五枚目表一〇行目(編注、一六巻一号九五頁七行目)の「パツト」を「パツド」に、同九枚目表八行目(同上、九七頁一五行目)の「大同機械株式会社」を「株式会社大同機械製作所(以下「大同機械」という。)にそれぞれ改め、同枚目裏三行目冒頭(同上、九七頁一八行目の「(新日鉄釜石)」の次)に「同年二月(川鉄水島)、」を加える。

2  同一九枚目裏三行目(同上、一〇三頁一六行目)及び六行目から七行目(同上、一〇三頁一七行目)の各「大同機械株式会社」をいずれも「大同機械」に改める。

3  同二一枚目裏六行目(同上、一〇四頁一八行目)の「指示」を「支持」に、同二三枚目裏二行目(同上、一〇五頁一八行目)の「工場」を「工業」にそれぞれ改める。

4  同三六枚目表末行(同上、一一三頁七行目)の「登録日」を「登録日の翌日」に、同三七枚目裏末行(同上、一一四頁二行目、証拠省略部分)の「一回」を「第一回」に、同三八枚目表七行目(同上、一一四頁二行目、証拠省略部分)の「二回」を「第二回」にそれぞれ改める。

(控訴人ら)

1  反訴請求原因の追加

(一) 被控訴人は、昭和五八年一二月、川崎製鉄株式会社(千葉製鉄所)との間に、同製鉄所の第二熱延工場の第四加熱炉をイ号製品のように改造する旨の契約を締結し、昭和五九年一月に着工し、同年七月に完成した。

(二) 右の改造工事代金は一二億一八六〇万円であり、その実施料相当額は三〇四六万五〇〇〇円である。

(三) よつて、控訴人ミツドランドは被控訴人に対し、既に請求している三台分の実施料相当額八四〇五万円のほか右の実施料相当額三〇四六万五〇〇〇円との合計金一億一四五一万五〇〇〇円及び内金八四〇五万円に対する昭和五五年五月三一日から、内金三〇四六万五〇〇〇円に対する右改造工事の完成後である昭和五九年八月一日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  付加する主張

(一) 被控訴人が、富士製鉄(広畑製鉄所)に対し見積りを行つた時点でその主張の発明を完成していなかつたことは、次の事実によつても明らかである。

(1) 被控訴人は、昭和四一年八月三一日付で富士製鉄に見積仕様書等を提出した旨主張するが、本件で重要な部分である偏心輪部について大同機械から被控訴人に見積書が提出されたのは、早くても昭和四一年一〇月二八日以降である(甲第二四号証の四)から、被控訴人が同年八月三一日に富士製鉄に対して見積書を提出することはできないはずである。

(2) 被控訴人は、昭和四二年一月以降昭和四四年七月までの間に七件のウオーキングビーム式加熱炉の引合を受けている(甲第一一号証)が、これらすべての駆動方式が油圧式で見積られている。その一方、この内三件の引合については、控訴人中外炉が受注し、しかも電動式のもの(本件特許発明の実施品)を納入している。更に、被控訴人は、昭和四五年三月一三日、新日本製鉄株式会社(以下「新日鉄」という。)釜石製鉄所から初めて電動式ウオーキングビーム加熱炉を受注することに成功し、昭和四六年五月に納品しているが、右納品については他社の製品を参考にしているのである。

(3) 被控訴人が富士製鉄(広畑製鉄所)に提出したと主張する見積仕様書(甲第六号証の四九)には図面が添付されておらず、これによつてその構造を知ることはできない。しかも、被控訴人が前叙のとおり昭和四六年五月に至り新日鉄に納品した製品は、被控訴人主張の右見積りによる製品(A製品)ではなく、イ号製品である。

(4) 控訴人中外炉が受注した前記三件のうち、例えば、株式会社神戸製鋼所(加古川製鉄所)に納入した製品を一基製作するためには、図面四八〇枚、設計資料三〇〇〇枚、材料表五七七枚、仕様書三六枚、操作説明書七一枚を必要とし、雑書類を含めると約五〇〇〇枚の書類を作成しなければならなかつた。これに対して、被控訴人が提出した図面は二三枚であり、その他の書類も一〇一枚に過ぎず、そのうち偏心輪に関する図面は、甲第六号証の四一のみであり、しかも同号証は図番のないもので、これが真正に成立したことを裏付ける資料もない。

(二) 事業の準備について

特許法七九条の「実施である事業……の準備」をしていたとは、事業としての実施を準備していたという意味であり、したがつて、先使用発明を即座に実施できるが、その事業として準備中であつたという意味である。換言すれば、「実施」とは特許法二条三項各号に列挙された行為であるが、物の発明については「生産」が原始行為であるから、特許出願の時に先使用発明を即座に生産できる状態であつたことが必要であり、それが事業としては準備中でも良いとされているに過ぎないのである。

これを本件についてみるに、前記(一)(1)、(2)で主張したように、被控訴人は、富士製鉄(広畑製鉄所)に見積りを提出したのちに、大同機械から見積書類の提出を受けているうえ、現在に至るまでA製品による偏心輪部(甲第六号証の四一)は製作せず、イ号製品のみを納入し、しかも昭和四四年七月時点の引合まで油圧式しか見積つていない。そして、一般に大型炉を製作する場合、受注後、単に注文書との間に細部を打ち合わせただけで最終設計図面が作成できるわけのものではなく、技術検討、技術計算を行い、時にはモデルの試作、テストを実施し、その結果に基づいて各部の設備を変更する要が生ずるから、A製品についても被控訴人が真剣に実用化可能な偏心輪部の発明を完成させる意思があつたのであれば、少なくとも図面だけでも作成されていて然るべきであるが、そのようなものは存在しない(本件の場合も、富士製鉄は、当初電動式を見積らせながら、最終的には油圧式に変更している。)。このように、被控訴人は、A製品について、最終設計図面を作成しておらず、いまだに、これを製品化し、部品の製造はもとより、その発注さえしていなかつたのであるから、先使用発明について即座に製造できる状態にはなかつたものというべく、したがつて、仮に発明を完成していたとしても、事業としての実施を準備していたとはいえない。

(三) 先使用権の範囲について

(1) 先使用権は、現実に差止めを求められている対象物件(いわゆるイ号物件)に関する抗弁である。すなわち、口頭弁論終結時の現実の使用物件について、先使用の事実がある限りにおいて、特許発明の存在にかかわらず、引き続きその製造、販売を認める制度であり、その範囲で特許権者と先使用者との間の公平を期したものであつて、先使用者が現実に製造、販売していないものにまで製造、販売の権利を与えたものではない。特定の特許発明には、理論的に無数の実施例が考えられ、イ号物件もその実施例の一つに過ぎないから、右物件を先使用していたからといつて、その無数の実施例のすべてについて先使用を認めることは、決して特許権者に公平といえるものではない。

仮に、先使用権者に対して一切の変更を許さないことが酷であるとすれば、イ号物件として同一性の範囲内にあると認められる場合に、その範囲において救済を考えればよく、これを発明の同一性の範囲にまで拡大すべきではない。この点について、被控訴人は、特許出願にかかる発明(特許法二九条一項柱書)と同法七九条の発明とは同一範囲のものであると主張するが、右二九条一項の特許出願にかかる発明とは、同法三六条五項にいう特許請求の範囲に記載の発明であつて、その技術的範囲は同法七〇条によつて決定され、これに対し、特許法七九条の「現に日本国内においてその発明……」とある発明は、同法二条一項の発明であることに変りはないが、その先使用発明の範囲は「その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内」という制限を受けているものである。したがつて、特許発明は抽象的なものであり、特許請求の範囲の記載は、様々な実施例を包含するものであるが、先使用発明は「その実施又は準備をしている発明」であるから、実施又は準備をしている具体的な発明としてのみ特定され、その範囲内でのみ先使用権を認められるのである。換言すれば、特許発明が包括的であるのに対して、先使用発明は、その実施例が一つであるときは、その範囲はその実施例に限定され、他の実施例には及ばないのである。

本件において、被控訴人は、A製品が先使用であると主張しているところ、A製品をイ号製品に変更したのであるから、具体的なA製品と具体的なイ号製品との同一性を論じるべきである。そして、A製品とイ号製品とは、原判決別表(二)記載のとおり相異なるものであるから、その間に同一性はないというべく、また、右の構造が本件特許発明と無関係であるとする被控訴人の主張が失当であることは、控訴人らにおいて従前述べたとおりである。

(2) 仮に、A製品とイ号製品とが同一発明に属するものであつても、それだけでイ号製品について先使用権が認められるのではなく、イ号製品が本件特許公報に記載されていないことを要件と解すべきである。そして、先使用権は元来「特許出願前既に存在した発明の維持」にその根拠があるのであるから、たとえその発明範囲内であつても、特許出願後に出願人によつて開示された実施例そのものに、先使用者が従来の実施形式から移行することは衡平の上から原則として許されないと解される(松本重敏「先願主義と先使用権」(工業所有権の基本的課題上、四七五頁)。ところがイ号製品は、前述したように、被控訴人において昭和四五年三月から五月の間に、当時控訴人中外炉が既に東海製鉄株式会社(現新日鉄名古屋製鉄所)に納入していた本件特許発明の実施品(乙第一四ないし第一六号証の現物)を見学し、これを参考にして製作し(原審証人須藤宏一の証言)、販売したものであつて、右の実施品と全く同じものであり、本件特許公報に開示せられたところとも同じものである。すなわち、

<1> 偏心軸の取付構造については、本件特許公報の第六図で、原判決付表(一)のようなキーがないこと、反面シヤフトの偏心輪(エキセントリツク)160の上下左右を切削加工していることから、一体構造となつていることが明らかである。

<2> 偏心輪のベアリング構造については、右特許公報の「図面の簡単な説明」欄の「各エキセントリツク160は、二列内向き傾斜テーパ付きころ軸受180、182の内レース部分176と178を軸受の小端部を互いに隣接させて両列に置いて取り付ける外周面を持つている(第6図参照)。」との記載によつて明らかである。

<3> 平行桁の横振れ防止構造については、同欄の「キヤリツジが作動中横にふらつくのを防ぐために、キヤリツジ100の両端の下に第3図に示す案内路のような案内路を設けることができる。各案内路は、キヤリツジ・ベツド104から垂直に垂下していて支柱部材228と230とで支えられた梁部分226の垂直配置のフランジを包囲している1対の間隔づけされた支持板224と224から成るものでよい。この梁部分は炉の中心線と整合されて水平に配置されている」との記載によつて明らかである。

<4> 偏心軸駆動方法については、同欄の「これらのエキセントリツク160はキヤリツジ100を上げ下げし、一連の直角伝動装置164および減連歯車166と168を介して操作する一台の大型電動機162で一致して駆動される。」との記載及び第4図によつて明らかである。

このようにイ号製品は、本件特許発明の公開後にA製品を変更したものであり、控訴人らに対して先使用権を主張し得ないものである。

3  被控訴人の付加した主張に対する反論

(一) 被控訴人の主張する各ケースについて、控訴人中外炉は、いずれも相手方に守秘義務を課している。

(二) 被控訴人引用の判決は、第三者が他人の特許発明又は実用新案について公知にしていた事案であり、本件の場合は、仮に公知になつていたとしても、それは、本件特許発明の専用実施権者である控訴人中外炉が公知にしたということであるから、右の判決とは事案を異にする。

(被控訴人)

1  追加された反訴請求原因に対する認否

被控訴人が、控訴人ら主張のころ、その主張の内容通り川崎製鉄株式会社(千葉製鉄所)第二熱延工場の第四加熱炉を改造する契約を結んで、その着工をし、昭和五九年一一月に完成したことは認めるが、その余の事実は否認する。右契約の相手方は三井物産株式会社であり、改造工事代金は七億四四五三万四〇〇〇円である。

2  控訴人らの付加した主張に対する反論

(一) 発明の完成について

(1) 大同機械の見積仕様書(甲第二四号証の一)は昭和四一年一〇月一三日付、また、見積書(同号証の四)は同年同月二八日付となつてはいるが、同社が被控訴人から見積依頼を受けたのは、同年八月末以前であつた。これは、右見積仕様書及び添付図面記載のウオーキングビーム駆動部の構造が、被控訴人の社員津田朋輝の作成にかかる技術計算書、図面及び富士製鉄に提出した本件見積仕様書、図面にそれぞれ記載されたものと全く一致していることからも容易に推認でき、被控訴人としては、他社と競争して緊急に本件加熱炉の見積書を提出する必要があつたので、大同機械から駆動部分の見積書が提出されるのを待たずに、同部分をも含む原価見積書(甲第四号証)を作成したものである。因に、右原価見積書の総計は金二億二四〇二万円(代案)であり、このうち右駆動部分について、被控訴人は、「鋼片搬送装置」として金三五七一万円と見積つているのに対し、大同機械は、これを金四五七一万円と見積つてきた。かように、下請会社又は購入先に見積り、引合を出し、それらすべての見積書の提出を待つていては応札期限に間に合わないため、被控訴人が独自に見積りをし、応札することはよくあることである。

(2) 被控訴人は、昭和四一年八月三一日ころまでには本件発明を完成し、富士製鉄(広畑製鉄所)向けの見積仕様書を提出したが、その後は、顧客の依頼その他の事情により、偶々七回にわたり油圧式の見積りをし、富士製鉄(大分製鉄所)向けの昭和四四年八月二五日付仕様書において、右発明と同一の電動式について見積りをしたものである。そもそも、被控訴人のような当業界に信用ある大企業が、未完成の発明について、重要な顧客である富士製鉄(広畑製鉄所)に対し、一基の価額が何億円にも及ぶ大規模プラントの引合に応じ、見積りをするようなことは、経験則上も到底考えられないことである。

(3) 被控訴人(東京販売部)は、昭和四一年八月三一日ころ、富士製鉄に対し、電動式ウオーキングビーム式加熱炉の見積書、設計図(甲第六号証の四一、一一九、一二〇、一二一等)及び見積仕様書(甲第六号証の四九)を提出しているが、右見積仕様書のみでも、本件発明の構成要件はあますところなく記載されており、当業者であれば、同書面を一覧するだけで、本件発明の構成及び作用効果を直ちに認識、感得することができるといつても過言ではない。また、前記津田が作成した甲第六号証の六九(昭和四一年八月二九日付図面)には、偏心輪によつてウオーキングビームの平行桁を支持する構造が示され、甲第六号証の一一九、一二〇の各図面にも、同様の構造が示されている。更にまた、偏心輪、外輪、転がり軸受の構造をより具体的に示すのが、駆動装置に関する甲第六号証の四一(昭和四一年八月二九日付図面)であつて、これは、該部(本件発明の要部)の製作図面であるとさえ言えるものである。

(4) 物の発明において、当該発明に係る実施品を製造するためには、当然詳細な製作図面を必要とし、場合によつては数千枚の書類を作成しなければならないであろうが、その発明が完成したといえるためには、その物を製造するに足りる完全な製作図面や、その物自体が製造されている必要はなく、課題の解決をもたらす具体的な物の具体的構成が示され、それによつて、その物の製造が一応可能となつている状況に至ればよいのである。ところで、本件特許発明の対象は、あくまでも、加熱炉全体ではなく、「炉の耐火室を通して工作物を搬送する動桁型コンベア」であり、その「基本的核心部分」は、鉛直方向に往復動させるための回転自在な外周環を有する偏心輪の点に存するものであるが、右発明の構成は、既に述べたように、被控訴人が広畑製鉄所に提出した見積仕様書、図面等や前記津田作成にかかる設計関係書類の中に、当業者が反復実施して、目的とする技術効果を挙げることが可能な程度に、具体的、客観的なものとして記載されていることは明らかである。

なお、本件発明は、前記のとおり、加熱炉の一構成部分たる「コンベア」に過ぎないから、加熱炉のその余の部分の製作図面の量の大小は、右発明の完成の成否の判断を左右する資料にはならない。また、被控訴人が本件電動式ウオーキングビーム式加熱炉の見積仕様書(甲第六号証の四九)、同図面(甲第六号証の一一九、一二〇等)及びその他の書類とともに、甲第六号証の四一の図面をも富士製鉄(現新日鉄)広畑製鉄所に提出した事実は、右図面が「広畑製鉄所大形工場連続式鋼片加熱炉見積仕様書<No. P-1691a>並びに関連する書式一式」中に含まれていることからも明らかである。したがつて、被控訴人が、富士製鉄の見積り依頼に応じて右図面を広畑製鉄所の関係者に交付するとともに、必要な技術的説明をしたことは疑いの余地がない。

(二) 事業の準備について

(1) 特許法七九条所定の「事業の準備」とは、その立法の経過等に鑑みれば、当該発明を本質的に実施するための確定的な準備行為が存すること及びこれを即時に実施する真面目な意思が明らかであること、換言すれば、その準備行為によつて当該発明を営業的に即時利用する真摯な意思が客観的に認識できるものであること、以上の条件を満たすものであると解される。被控訴人が、本件特許出願の際に少なくとも事業の準備をしたことは、本訴請求原因1(五)(1)(ロ)で主張したとおりである。

(2) 富士製鉄広畑製鉄所大形工場には、昭和四一年ころプツシヤー式加熱炉一基が既に稼働していたが、右工場増強計画の一環として、二基目の加熱炉を建設することになり、これをプツシヤー式とすることも一時検討されたが、最終的にはウオーキングビーム式加熱炉を初めて採用することになり、落合掛長及び鈴木鐵巳等がそれぞれ担当者となつて、基本計画を作成し、被控訴人、控訴人中外炉及び石川島播磨重工業株式会社(以下「石川島」という。)の三社に対して、ウオーキングビーム式加熱炉の見積りをさせた。その結果、各社は、同製鉄所の依頼に基づいて見積作業を開始し、同年八月末ころまでに、被控訴人及び控訴人中外炉が、前記のごとく偏心輪使用による電動式を設計して見積仕様書を提出し、石川島は、油圧式の見積りをしたので(甲第七号証)、同製鉄所は、同年九月七日より同月一二日まで加熱炉見積検討会を行い、被控訴人の見積りについては同月一三日検討をなし、同月一九日には控訴人中外炉及び石川島との間で、同月二〇日には被控訴人との間で、それぞれ会合を開き、各社から見積りにつき説明を受けた。その後同製鉄所は、油圧式のものについても検討することになり、同月末ころ、被控訴人及び控訴人中外炉に油圧式の見積りをさせ、種々検討した結果、同年一一月七日ころ、控訴人中外炉の見積りに係る油圧式ウオーキングビーム式加熱炉を採用することに決定し、同社にこれを発注するに至つたものである。ところで、同製鉄所においては、ウオーキングビーム式加熱炉の採用にあたつては、炉本体の鋼片加熱機構の性能、品質を主要な技術上のポイントと考えており、鋼片搬送機構(ウオーキングビーム機構)は、全体の評価から見て従たる地位を占め、しかも、上下駆動方式を電動式とするか油圧式とするかについては、それぞれ一長一短があり、ユーザーの好みに属する事柄でもあつたから、最終的に控訴人中外炉の油圧式ウオーキングビーム式加熱炉を採用、発注する際にも、あくまでも、炉本体の加熱機構に重点を置き、見積価額その他の諸条件を勘案してこれを決定し、駆動方式をそのポイントとしたものではなかつた。まして、控訴人らの主張するように、被控訴人製品における電動式の駆動機構が控訴人製品のそれに比べて技術的に未完成で劣つていたから被控訴人が右注文を逸した、というような事実は全くないのである。更に、同製鉄所におけるこれらの大規模プラント建設は、巨額の費用を要し、工場全体の操業に重大な影響を与えるものであるから、綿密な建設計画のもとに、引合から見積り、発注、製作、引渡し、運転に至る過程が、順を追つて円滑かつ確実に進行すべきことがユーザー側の至上命令として要請され、したがつて、各メーカーとしては、引合を受け、これに応じて必要な設計及び見積りをし、見積仕様書等を同製鉄所に提出した段階で、受注があれば直ちに見積仕様に係る製品の製作に着手し、これを納入するための準備態勢を完了したものと言わねばならない。すなわち、少なくとも右の段階で、各メーカーは、当該製品にかかる発明を実施するための確定的な準備行為に着手し、かつ、その準備行為によつて、当該発明を営業的に即時利用する意思が客観的に認識しうる状態になつたものと認めるのが相当である。

以上によれば、被控訴人は、偶々富士製鉄広畑製鉄所の受注に至らなかつたとはいえ、本件発明の実施のため事業の準備に着手したことは、およそ疑問の余地のないところである。

(3) 控訴人らは、被控訴人は見積仕様書及び簡単な図面を作成、提出したにすぎず、最終製作図を作成していないから、右応札行為は事業の準備に当たらないとも主張するが、控訴人中外炉自身、本件引合において、本件発明にかかる電動式ウオーキングビーム式加熱炉の見積仕様書を提出するにあたり、被控訴人と全く同程度の図面、説明書を添付しているに過ぎないから(甲第七号証)、もし、被控訴人の見積仕様書等の提出行為が事業の準備に該当しないとすれば、控訴人中外炉もまた、右応札において本件発明の実施のための事業の準備をしていなかつたことになろう。控訴人らの主張は、結局、被控訴人が同製鉄所から本件加熱炉を受注し、その製作を開始しなければ事業の準備をしたことにならない、というのに帰するのであるが、このような解釈は、特許法七九条が「発明の実施である事業」とは別にわざわざ「事業の準備」を定めている趣旨を没却するものである。

(三) 先使用権の範囲について

(1) 特許法七九条には、「特許出願に係る発明の内容を知らないで」と規定されているが、ここに「特許出願に係る発明」とは、特許請求の範囲に記載され(同法三六条五項)、その技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定めるものであるから(同法七〇条)、先使用権者が実施又は準備している「発明の範囲」を認定するに当たつても、当該特許出願に係る発明の「特許請求の範囲」の記載を基準とすべきことは、多言を要しない。A製品とイ号製品を対比して、両者の構造が相違するから本件先使用権は成立しない旨の控訴人らの主張は、本件特許発明とは無関係に先使用権の範囲を定めようとすることに帰し、法律上無意味な主張といわねばならない。本件特許発明との関係を無視して、被控訴人が本件先使用物件(A製品)において実施又は準備している発明(実施発明)を抽出し確定することは、およそ不可能である。発明は、具体的にはいくつかの構成の組合せからなるものであるとされるが(同法三六条五項参照)、A製品において実施されている「発明」は、見方によつては、まさに無数のものがあるわけであるから、一定の判断基準がなければ、本件先使用権の対象となる実施発明を認定することは到底出来ないのであり、そして、右の判断基準が当該特許請求の範囲の記載であることは、明らかである。

被控訴人の先使用発明と本件特許発明とを対比すると、両者の技術的範囲は同一であるのみならず、本件特許発明の必須要件の具体的実施形式も、これまた全く同一のものであり、両者の発明の間に、上位下位の関係がある場合、あるいは全部、一部の関係がある場合には該当しない。

(2) 先使用権の範囲については、実施又は準備をしている「発明」及び事業の目的「の範囲内」と規定され(特許法七九条)、したがつて、先使用権者は、先使用していたその「発明」(技術思想)を実施しうるものであつて、彼が実施又は準備していた具体的な「物」を証拠として、当該「物」に具現される発明(技術的思想)について先使用権が成立する。かように、先使用権制度の目的は、所謂発明の占有を保護するものであつて、実施していた「物」ではなく、あくまでもその物に具現されている「発明」が先使用権の対象なのであるから、具体的なA製品と具体的なイ号製品とは同一のものであるとは言えず、いわゆる実施形式の変更がなされたものとして、イ号製品について先使用権が存在しないとする控訴人らの主張は、右特許法の規定及び先使用制度の趣旨に反する見解といわなければならない。

ところで、右七九条の「発明の範囲」につき、実施形式限定説、発明思想説のいずれを採るにしても、実施形式ないし実施形態の変更が問題となるのは、あくまでも発明構成上の必須要件が具体化される技術的手段についての変更がなされる場合に限られ、そして、特許出願に係る発明の必須構成要件は、特許請求の範囲に記載され(特許法三六条五項)、かつ、発明の詳細な説明の記載によつて支持されているものであるから(同条四項)、先使用物件の構成のうち、特許請求の範囲に記載されず、また、発明の詳細な説明にもその作用効果が全く記載されていないような事項の実施手段につき、何らかの設計変更がなされたとしても、当該特許出願に係る発明との関係では、実施形式の変更がされた場合には該当せず、先使用権の範囲を制限する事由にはなりえない。本件において、控訴人らが指摘する<1>偏心輪と偏心軸の取付構造、<2>偏心輪と外周環を回転自在とするためのベアリング構造、<3>ウオーキングビーム支持平行桁の横振れ防止構造及び<4>偏心輪駆動方法は、本件特許請求の範囲に何らの記載もないばかりか、いずれも機械製作上の慣用手段であつて、同条に定める「発明」に該るものとは到底認められないから、実施形式の変更の問題は起りえないというべきである。

したがつて、本件特許出願に係る発明との関係において、A製品とイ号製品とは、「発明」として全く同一のものであるといわなければならない。

(3) 控訴人らは、本件先使用権成立のためには、イ号製品が本件特許公報に記載せられていないという要件を必要とする旨主張しているが、本件公告のなされたのが昭和四六年一〇月一二日であることは措くとしても、前記四つの装置部分が本件発明の構成要素とは無関係のものである以上、これら装置部分について、右公報ないし実施品を見て実施形式の変更をなしたか否かを問題とする余地は全くない。

3  付加する主張

(一) 控訴人中外炉は、前2(二)のとおり、昭和四一年八月末日ころ、富士製鉄広畑製鉄所に対し、本件発明にかかる電動式ウオーキングビーム式加熱炉の見積仕様書及び図面を提示し、右発明について何らの守秘義務を有しない同製鉄所担当者にその技術内容を開示したから、既にこの時点で本件発明は国内公知になつたというべきである。この事実も、控訴人らにおいて本件特許権に基づき差止請求権を行使することは権利の濫用にあたる旨の被控訴人の主張を補強するものである。

(二) 更にまた、本件特許発明は既に優先権主張日前(出願前)に、前記のとおり各開示及び昭和四一年八月ころ富士製鉄広畑製鉄所に対し何らの守秘義務を課すことなく見積仕様書等を提出したことにより、少なくとも三たびにわたり公知となつているところ、こうした公知公用の特許権の権利範囲は、その明細書の実施例に限定されなければならない(最高裁判所昭和三七年一二月七日第二小法廷判決民集一六巻一二号二三二一頁、大阪高等裁判所昭和五一年二月一〇日判決・特許ニユースNo.四四八八)。そして、イ号製品は、本件特許発明の実施例と対比すると、水平駆動源が電動でなく油圧である点及び水平駆動機構がクランクでなくシリンダーである点において異なるものであるから、本件特許権にもとづく差止請求の対象外であるというべきである。

理由

一  当裁判所も、被控訴人の本訴請求は、原判決が認容した限度でこれを認容し、控訴人らの反訴請求は、控訴人ミツドランドが当審で拡張した請求を含めて、すべて棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決三八枚目裏一〇行目(編注、一六巻一号一一四頁八行目)の「証人吉本弘、」を「当審証人牛島茂美、原審証人吉本弘、同津田朋輝、」に改める。

2  同三九枚目裏七行目(同上、一一五頁一行目)の「炉内に」の次に「耐火材で構成された」を加え、八行目の「上昇」から九行目の「行う」まで(同上、一一五頁二行目)を「固定炉床より上方へ昇り、材料を載せて前方に送り進んだのち、固定炉床の下方へ降りて後退する」に、同四〇枚目表六行目(同上、一一五頁七行目)の「全く同じ」を「同類の」にそれぞれ改め、七行目(同上、一一五頁七行目)の「加熱炉は」の次に「、炉床に耐火材を使用しており、」を加える。

3  同四〇枚目裏一行目の「弁論の全趣旨」から九行目の「証言」まで(同上、一一五頁一〇行目から一四行目にかけて)を次のとおり改める。

「原審証人津田朋輝、同森哲夫及び同吉本弘の各証言により成立を認める甲第五号証、第二四号証の一、二、第九、第一一号証、いずれも右津田証言により成立を認める甲第六号証の一ないし四〇、四二ないし一二四、第二〇号証、第二三号証の一、二、津田証言及び当審証人鈴木鐵巳の証言により成立を認める甲第六号証の四一、右鈴木証言により成立を認める甲第七号証、第三五号証の四、一〇、四〇、四一、四三、四七ないし五〇、六五、七五、七六、八六ないし八八、一一五ないし一二三、二〇〇ないし二〇五、第三六号証、いずれも原審証人須藤宏一の証言により成立を認める甲第一五号証、第一七号証の一、二、第一八号証、第一九号証の一、いずれも弁論の全趣旨により成立を認める甲第一六号証、第一七号証の三、四、第一九号証の二ないし四、第二四号証の三、四、原審証人吉本弘、同森哲夫、同須藤宏一、同津田朋輝及び当審証人鈴木鐵巳の各証言並びに弁論の全趣旨」

4  同四一枚目表二行目(同上、一一五頁一七行目)の「第二号連続式鋼片加熱炉」を「一号加熱炉」に、同枚目裏一〇行目の「ウオーキングハース式」から同四二枚目表一行目冒頭の「の」まで(同上、一一六頁一〇行目から一一行目の「加熱炉の」まで)を「ウオーキングビーム式に変更し、しかもその」にそれぞれ改める。

5  同四二枚目表四行目の「ウオーキングハース式」から六行目の「以下」まで(同上、一一六頁一三行目から一四行目にかけて)を「ウオーキングビーム式で上下動駆動を電動式とする加熱炉(以下」に、八行目から九行目(同上、一一六頁一六行目)の「ウオーキングハース式加熱炉(上下焚)」を「ウオーキングビーム式加熱炉」にそれぞれ改め、同枚目裏七行目(同上、一一七頁三行目)の「原価見積書」を削除する。

6  同四三枚目表五行目(同上、一一七頁九行目)の「そのころ」を「そのころまでに」に、五行目の「大同機械」から七行目冒頭の「らつた」まで(同上、一一七頁九行目から一〇行目にかけて)を「大同機械に偏心カムを含む駆動部分の図面を示してその見積りを依頼した(なお、同社は同年一〇月一三日付で右見積仕様書を、同月二八日付で見積書をそれぞれ作成し、被控訴人に提出した。)」にそれぞれ改め、同枚目裏八行目(同上、一一七頁一七行目)の「原価見積書」を削除する。

7  同四四枚目裏二行目(同上、一一八頁八行目)の「昭和四三年」を「昭和四四年」に、同四五枚目表四行目末尾(同上、一一八頁一六行目)の「右」を「富士製鉄から引合を受けた」にそれぞれ改める。

8  同四五枚目裏八行目から九行目(同上、一一九頁六行目)の鉤括弧内を「『発明』とは、自然法則を利用した技術的思想の創作」に、同四六枚目裏四行目(同上、一一九頁一五行目)の「証人」を「当審証人鈴木鐵巳、原審証人」に、八行目(同上、一一九頁一七行目)の「認められるから、」を「認められるから(当審証人牛島茂美の供述中右認定に抵触する部分は上記各証言に対比して採用し難い。)、」にそれぞれ改める。

9  同四七枚目表三行目(同上、一二〇頁三行目)の「証人吉野喬雄の証言」を「控訴人中外炉において昭和四四年ころ受注した富士製鉄(大分製鉄所)用の電動式ウオーキングビーム式加熱炉の図面、設計資料、材料表、操作説明書及び仕様書等の書類の写真であることに争いのない検乙第三号証の一ないし五、当審証人牛島茂美及び原審証人吉野喬雄の各証言」に、六行目冒頭(同上、一二〇頁四行目)の「相当の」を「更に相当多数の書類を調製しなければならず、そのためにかなりの」にそれぞれ改める。

10  同四七枚目表末行冒頭(同上、一二〇頁七行目)の「(四)」を「(五)」に、末尾(同上、一二〇頁七行目)の「すぎない」を「すぎず、最終設計図面の作成もなく、部品の発注さえしていなかつた」にそれぞれ改める。

11  同四八枚目表九行目(同上、一二〇頁末行)の「証人」を「原審証人」に改め、同枚目裏八行目(同上、一二一頁六行目)の末尾に次のとおり加える。

「なお、控訴人らは、被控訴人が昭和四二年一月から昭和四四年七月までの七件の引合をすべて油圧式で見積つている事実をもつて前記主張の根拠の一つに挙げているが、前顕甲第一一号証及び原審証人吉本弘の証言によれば、駆動装置を電動式にするか油圧式にするかは顧客の好みによるところが大きいこと、そして、現に被控訴人において昭和四五年三月一三日に電動式による受注に成功したのちも、同年七月から昭和四七年三月までの六件の引合についてはすべて油圧式を見積つていることが認められるから、控訴人指摘の叙上の事実は、被控訴人が本件特許出願の際、既に発明の実施の準備をしていたとの前示判断を左右するものではない。」

12  同四九枚目表一行目冒頭(同上、一二一頁八行目)の「準」を「備」に、「実施」(同上、一二一頁九行目初出の「実施」)を「実施又は準備」にそれぞれ改める。

13  同五一枚目裏七行目(同上、一二三頁九行目)の末尾「ない」の次に「(なお、いずれも成立に争いのない甲第一二号証の二ないし五、第一三号証の二ないし四、第二七、第二八号証及び弁論の全趣旨によると、駆動装置としての偏心輪及び内輪と外輪(外周輪)との間に転動体をおいた転がり軸受の技術は、いずれも本件特許出願前(優先権主張によれば昭和四三年二月二六日前、以下同じ。)公知の技術であつたことが認められる。)」を加える。

14  同五二枚目裏一〇行目(同上、一二四頁九行目)の「したことになり、」を「したことになる。」に改め、「本件特許発明」から同五三枚目表一行目末尾まで(同上、一二四頁九行目から一〇行目まで)を、行を変えて次のとおり改める。

「そうすると、被控訴人は、A製品を発明し、かつ、その製造、販売の準備をしたことにより、本件特許権について、何らの制限のない先使用による通常実施権を有するものといわなければならない。」

15  同五三枚目表二行目(同上、一二四頁一一行目)の「そこで以上の前提に立つて、」を「次に、」に改め、更に三行目の「原告」から一一行目末尾まで(同上、一二四頁一二行目から一六行目まで)を次のとおり改める。

「イ号製品が本件特許発明の技術的範囲に属すること及びイ号製品とA製品とが原判決別表(二)記載の四つの構造もしくは方法において相違していることは、いずれも当事者間に争いがないところ、右四つの装置部分は、3で説示したとおり、本件特許発明との対比においてその必須構成要件ではなく、右構成要件との係わりを肯定するとしても、それは二義的なものにすぎず、加えて、前顕甲第二七、第二八号証作成の方式・趣旨に照らして被控訴人主張のような図面と認める甲第二六号証並びに弁論の全趣旨によると、イ号製品の右各装置部分は、被控訴人主張のとおり本件特許出願前いずれも公知のもので、この分野における通常の技術的知識を有する者にとつては明白な置換可能物又は方法であつたことも認められるから、いずれにしても、本件特許発明との対比において、イ号製品はA製品の占有状態内のものとみることができ、したがつて、被控訴人は、イ号製品を製造、販売するについて先使用権を有するものといわなければならない。

なお、控訴人らは、イ号製品は、本件特許発明の公開後に、その公開された実施例そのものにA製品を変更したものであるから、公平の上から、控訴人らに対して先使用権を主張することは許されない旨主張する。しかしながら、本件特許権の出願公告日以前である同年五月に被控訴人らが既にイ号製品を新日鉄に納入したということは控訴人らにおいて自陳するところであり、また、被控訴人は控訴人中外炉が東海製鉄株式会社(現新日鉄名古屋製鉄所)に納入していた製品を参考にしてイ号製品を製作したとする点についても、控訴人らの指摘にかかる原審証人須藤宏一の証言の内容は、須藤宏一が富士製鉄釜石製鉄所(現新日鉄釜石製鉄所)の職員として、被控訴人に大型加熱炉を発注するにあたり、東海製鉄株式会社(現新日鉄名古屋製鉄所)の工場で控訴人中外炉の製品を見学し、参考にしたというにすぎないことが認められるのであり、進んで、そもそも前説示のような四つの装置部分の構成要件との係わり及び本件特許出願当時の技術水準を考慮すれば、被控訴人において本件特許公報ないしその実施品を知見のうえ、右各装置部分を原判決別表(二)記載のとおり変更したものであるとしても、これが直ちに公平の理念に反するとはいい難いところというべきである。そうであれば、ひつきよう、控訴人らの上記主張は採ることができない。」

16  同五三枚目裏三行目の「原告」から九行目末尾まで(同上、一二五頁一行目から五行目まで)を削除し、一〇行目(同上、一二五頁六行目)の「かかる場合には、」を「3、4の説示からすれば、」に改める。

17  同五五枚目表五行目(同上、一二六頁四行目)の「証人」を「原審証人」に改め、同五七枚目表三行目冒頭(同上、一二七頁一〇行目)の「請求」の次に「及び控訴人ミツドランドの損害賠償請求(当審で拡張した請求を含む。)」を加える。

二  よつて、原判決は相当であり、本件各控訴及び控訴人ミツドランドの当審で拡張した請求はいずれも理由がないから棄却し、当審における訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中田四郎 日高乙彦 三宅俊一郎)

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